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「猫本屋」での出会い

向田邦子さんの作品が好きだ。


最初の出会いは、かなり昔に放映されていたテレビドラマ「阿修羅のごとく」だったと思う。私はまだ子どもだったけれど、あの音楽(トルコの軍楽なのだそうだ)のインパクトは強烈だった。後に「阿修羅のごとく」の原作を読んだ。

しばらく向田さんの作品から離れていたが、大人になってから、やはりテレビドラマで向田さんの作品が原作になっているものを、偶然に見た。それがきっかけで、すっかり彼女の作品にハマった。

向田さんの作品を読んで、書評を書く方はたくさんいらっしゃると思うので、ここで作品について書くつもりはない。ライターになった私が今、思うのは、もし、向田さんが生きていらっしゃったら、お話を伺ってみたいということだけだ。

 

向田さんは、1981年(昭和56年)の8月22日、台湾旅行中に飛行機事故で亡くなっている。その時、私はまだ小さかったから、向田さんがどんな方かは全く存じ上げなかった。それに、現在では作家さんがテレビなどのマスコミに登場することも珍しくなくなったが、当時はそういう番組や企画も少なかったように思う。だから、余計に彼女がどんな方なのかを知る機会がなかったのかもしれない。

ライターになって「もし、生きていらっしゃったらお話を伺ってみたい」そう思っていたら、生前の向田さんを浮き彫りにした本を、これも偶然に見つけた。それが写真の本「向田邦子ふたたび」(文藝春秋)である。

 

三軒茶屋近くの住宅街に「猫本」を集めた本屋「Cat's Meow Books」さんがある。猫本といっても、猫の写真集やイラストだけではなく、本のどこかに猫が登場すれば、この店では「猫本」と認定される。しかも、リアル猫さんが店員で、本屋さんなのにビールが飲めるという、最高の空間である。

 

上の写真で、本の後ろに写っているのが「Cat's Meow Books」さんのカバーだ。猫本に猫のカバーをかけてもらえるのだから、本好きで猫好きとしてはたまらない店なのだ。

私はここで、この本に出会った。


この本は、向田さんが亡くなってから2年後の1983年(昭和58年)8月の文藝春秋臨時増刊を改訂増補した文庫で、2011年7月に新装版として再び発売された。大きな出版社さんなので、2011年当時には書店で大々的に平積みされていたのかもしれない。

 

しかし、当時の私は震災の影響を受けて無職になり、ようやくフリーランスとして仕事をし始めたばかりで、新しい本を買う余裕などなかった。だから、あえて書店にも足を運ばなかった。書店で本を見れば、絶対に欲しくなるからだ。

 

そして昨年、2017年に「Cat's Meow Books」さんで、この本と「目が合った」のである。向田さん亡き後、彼女と一緒に仕事をした編集者さんや、友人の作家さんたちが向田さんについて語っているこの本は、今や私の愛読書だ。何かあるごとに「そうか、向田さんはそういう人だったのか」と、思いを馳せている。

もし、私が猫本を集めたこの本屋さんのことを知らなかったら、知ったとしてもこの本屋さんに足を運ばなかったら、この本との出会いはなかったはずだ。私は今でも、本をネットで買うことはほとんどないので、Amazonのレコメンドにも登場しなかったと思う。

個性的で特徴ある品揃えの、リアル本屋さんのありがたさを、この本を通してかみしめている。