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台風が「真逆に向かう」ということ

東京には、台風一過の青空が戻ってきた。

 

…と、ここまでは普通の「台風一過の日」なのだが、今回の台風については、ちょっと書き残しておきたいと思った。

 

通常では、台風が東京を過ぎると、東北や北日本のことが気になる。台風は「西から東へ向かう」のが当たり前だったからだ。

 

この時期だから、東北の青々とした田んぼの稲が強風で倒れないだろうかとか、これから旬を迎える梨やぶどうなどの果物は、台風の風で木から落ちたりしないだろうか…。東北生まれの私は、こんなことを心配したりするものなのだが、今回の台風は、違っていた。

 

台風12号は「西へ」向かっている。通常ではあり得ない、日本の東側から西側へ。すでにニュースで何度も伝えられているように、気象庁も「今までにないコース」と驚きを隠せないでいる。

 

SNSで誰かがつぶやいていたが、小笠原諸島付近から、ちょうどクエスチョンマークの「?」を下から描くように、関東、東海、関西や中国地方を通って、九州へ、そして東シナ海へ向かっているのである。

 

「台風12号は、広島から九州へ進み、東シナ海へ抜ける見込みです」という天気予報を聞いて、私はかなり違和感を覚えている。

 

以前、私は沖縄で報道部のリポーターとして各地を取材していたので、当然、台風については、毎年何度も取材した。当時は、「沖縄の南海上で発生した台風が、北へ向かって進み、沖縄付近に接近する見込み」というのが、当たり前だった。

 

台風は、水分を栄養として成長するから、すべてが台風の栄養となる海上では勢力が強く、陸に上がれば徐々に勢力が衰える。台風にとって、沖縄のような小さな島は「海上」とほぼ同じようなものだ。

 

だから、沖縄では、勢力が強いままの台風にも耐え得るインフラや、住環境を考えて、街がつくられている。台風の勢力が強くても、人的な大きな被害が出ないのは、このためなのだ。

 

そして、台風は沖縄を過ぎた後、勢力を弱めながら、九州もしくは四国や関東の太平洋側をかすめて、日本から離れていく、というのが、通常のコースだったはずだ。

 

それが、今回は関東から近畿、中国、東シナ海という、「真逆の」コースをたどっている。

 

先日、西日本を襲った豪雨にしても、「晴れの国」といわれている岡山県が、大きな被害を被った。偶然にも、西日本豪雨の直後、西日本に住む知り合いと話をする機会があったが、岡山には雨が少ないので、地元の人たちには「水害」という意識が薄いのだと仰っていた。

 

自然災害というのは、総理大臣だろうが、大企業の社長だろうが、ごく一般の人だろうが、みんなに等しく襲いかかってくる。今までの常識が通用しないどころか、これまでと「真逆」であるということに、恐怖すら覚える。

 

これまでの常識が通用しないということは、人間がこれまでに経験したことがないことを、想定しておかなければならないということだ。「地球が怒って」異常気象になっていると同時に、人間の想像力が試されていると思う。