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広すぎる英語圏、深すぎる日本語

以前、日本語がペラペラのオーストラリア人Sさんから聞いた話によれば、オーストラリアのテレビでは、自国で制作された番組だけではなく、アメリカ、イギリス、カナダなど、いろいろな国で制作されたものがそのまま、普通に地上波のテレビ局から流れているそうだ。

 

これは、日本なら考えられないことだ。なぜなら、日本で海外制作の番組を放送しようと思ったら、著作権の問題だけではなく、字幕や吹き替えを付けなければならないからだ。

 

だが、考えてみれば前述の国々はすべて、基本的には公用語が英語なのである。だから、そのまま放送されているわけだが、私とおしゃべりしていたオーストラリア人Sさん曰く、同じ英語でも、それぞれの国によって少しは発音に違いがあるという。

 

日本人によく知られているのは、オーストラリアでは「トゥデイ」を「トゥダイ」と発音すること。これはSさんも、日本人に出会う度にしょっちゅう言われるらしい。

 

他にも、文字として表記するのは難しいが、イギリスとアメリカの発音は全然違うし、アクセントの位置も微妙に違ったりするようだ。とはいえ、英語は英語。コミュニケーションができないとか、意味がわからないというほどのことはなく、いわば「訛り」程度の違いだという。

 

ところが、日本は全国どこへ行っても同じ「日本語」を使っているはずなのに、地方へ行けば「訛り」ではなく、単語そのものが違ってしまう。共通語や標準語といわれる言葉はあるが、それはいろんな地方の人が集まっている東京や、地方ならビジネスで使われる言葉だ。地方の人同士が地元で仕事をするなら、地元の言葉を使うと思う。例えば、共通語で「ありがとうございます」は関西では「おおきに」だし、共通語で「これ、いくら?」が関西では「これ、なんぼ?」になる。

 

私が以前住んでいた沖縄の言葉に至っては、もう、日本語との共通点はほぼないといっても過言ではないかもしれない。「ありがとうございます」は「にふぇーでーびる」だし、「おいしい」は「まーさん」である。ちなみに、この写真にある「さーたーあんだぎー」は直訳すると「砂糖の天ぷら」という意味になる。

 

私は大学生の頃、沖縄のとあるホテルの宴会場で、ウェイトレスのアルバイトをしていたことがある。ホテルの宴会場だから、週末ともなればほぼ毎週のように結婚式の披露宴会場となる。

 

ある日、そこで行われた披露宴に、新婦のひいおばあちゃん(沖縄では高齢の女性のことをみんな「オバア」という)である高齢の方がやってきた。そしてたまたま、私がそのテーブルの担当になった。沖縄では、新郎新婦が入場するまでの間、招待客はウェルカムドリンクを飲んで待っていてもいいことになっている。ドリンクは、ビールや泡盛などのアルコールの他に、コーラやオレンジジュースなどのソフトドリンクも用意されている。

 

私は、自分が担当するテーブルに着席したオバアに、ウェルカムドリンクの希望を聞きに行った。その当時、私の周りには沖縄県民の友人がたくさんおり、私は山形出身にもかかわらず、沖縄訛りでしゃべるのを得意としていたから、オバアが相手でもなんとかなるだろうと高を括っていた。

 

私「オバア、飲み物はなにがいいねぇ~?」

オバア「???」

私は、オバアはきっと耳が遠いのだと思って、声を少し大きく張って、再度聞いた。

私「オバア、好きな飲み物はなんねぇ~?」

オバア「○○○○!!」

私「???」

 

するとそこへ、60代くらいの女性がやってきて、オバアに向かって何やら話しかけていた。すると、オバアは「コーラー」と言ったのである!

 

私には全く何と言っているのかわからなかったが、その女性が話していた言葉が、まさに沖縄の方言だった。この女性はオバアの娘のひとりで、オバアは普段から沖縄の方言でしか会話をしていないのだと仰っていた。どおりで、どんなに沖縄訛りで話しかけても「???」なわけである。

 

あれから20年以上も経つので、今もそういう人がいるのかはわからないが、当時は、共通語や標準語が全く通じない人が、実際に存在したわけである。驚くべき日本。驚くべき日本語。深すぎるわっ!!