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「日常の記録」というコンテンツ

スマホで気軽に写真が撮れるようになって、誰もがカメラマンになっています。私も毎日、大好きなお酒やおいしい料理の写真を中心に、写真を撮らない日はほとんどありません。

 

けれど、20年ほど前までは、カメラといえばフィルムが中心でした。フィルムそのものにも、フィルムで撮影した写真を現像するにも、お金がかかっていました。

 

だから、今のように気軽に簡単に、何枚も何枚も写真を撮ることはなかったんですよね。「写真を撮る」というのは、ある意味で特別なことだったように思います。

 

このため、私は今、とても苦労していることがあります。

 

それは何かというと、とある会社の社史編さんをお手伝いしているのですが、昔の日常の写真がないのです。あるのは、旅行に行った時の記念写真などばかり。家族経営の小さな会社なので、当時の社屋や働く様子の写真が、全くと言っていいほどありません。

 

「あ~、困った…」と、思っていたところ、新宿の紀伊國屋書店さんで、この本を見つけました!

 

「秘蔵カラー写真で味わう60年前の東京・日本」(光文社新書)というこの本は、東京を中心に日本各地の60年前の風景をカラーで撮影した写真集。著者のJ・ウォーリー・ヒギンズさんは、日本全国をくまなく巡り、当時貴重だったカラーフィルムで鉄道写真を撮り続けた方です。

 

この本では、列車とともに、当時の人々の日常生活も垣間見ることができます。おそらく、当時の人々にとっては、写真に撮られるような場面ではなかったと思いますが、外国人であるヒギンズさんだからこそ「日本の何気ない生活」を記録しておこうと思ったのかもしれません。

 

その写真が今、私にとって、いいえ、おそらく、当時のことを書く仕事をする人たちにとっては、とてもありがたい資料になっているのです。

 

当時、新聞はもちろんありましたが、新聞は特別なことを伝えるメディアであって、人々の当たり前の生活を記事にすることはほとんどなかったと思います。これはおそらく、今もそうでしょう。だから、一般の人々がごく普通に生活している写真は、あまり残っていません。

 

もし、日常を撮影していたとしても、デジタル化されているものは少ないので、インターネットでは見ることができません。そうなると、国会図書館やそれぞれの新聞社へ行って、時間をかけて調べるしか手段はないのです。

 

今、私がある会社の社史編さんのお手伝いをしている、まさにこの時に、この本に出会えたことは、単に「資料を見つけた」という意味だけではありませんでした。

 

「日常を記録する」という何気ないことに、実は重要な意味があるということを、この本は教えてくれました。日常の記録は、後に大事なコンテンツになります。そのことを、ちょっと意識しながら生活しようと思います。日常の記録を積み重ねれば、オリジナルのコンテンツが出来上がるのですから。