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「取材学」という本

出張先の書店で「取材学」という本に出会いました。社会学の先生で、有名大学の教授などを歴任なさった加藤秀俊氏の本です。

 

読んでみると、取材して原稿を書くことを生業とする私にとっては「そうそう!そうそうなんです」と共感することばかり。

例えば

「われわれは、あつめた情報のうちごく一部だけをひろいあげ、それをいわば部品として論文だの記事だのを組み立て、そして発表する。あつめた情報の大部分は捨てられてしまうのである。」

なんていう一節は、もう本当にその通り!!と深く深くうなずいてしまうほどです。

 

著者は社会学の先生なので、面接調査(人に会って話を聞く調査)を例にして書いていますが、まさに私たち取材ライターもその通り。

 

ご依頼いただく原稿には必ず文字数に制限があって、私の場合は2,000~3,000文字ということが多いです。でも、その2,000文字のために、取材先の方に何時間もお話を聞きます。話すスピードが人によって違うので情報量も変わりますが、10,000文字分くらいを聞いて、それを2,000文字にまとめることも少なくありません。

 

けれども、その10,000文字分の情報は、決してムダではないのです。必要な情報を得るためには必要なことなのですが、全部を載せるわけにはいかないので、大部分を捨てて記事にするわけです。

 

そういうことをわかってくれて、しかもきちんと書籍としてまとめてくださっている人がいるんだなぁと、この本に出会って本当によかったと思いました。

 

しかも、この本の初版は1975年。まだまだインターネットが一般に普及していないころに書かれています。

 

どうやら、卒論などの論文をまとめる学生向けに書かれたもののようなのですが、それだけではありません。著者はこの本の最初の方で、スーパーに買い物に行く主婦がチラシを見てどこが安いかという情報を手に入れるのも、営業マンが顧客のニーズを探るのも、みんな取材だ、というようなことを書いています。

 

ましてや、SNSで誰もが情報発信をする今の時代ですから、「取材」というのは、誰にでも関係あることだと私は思います。

 

こういう本が40年以上前に出版され、版を重ねていることに納得です。インターネットがあってもなくても、取材の基本は変わらないんですよね。

 

この本を読んで、「来年も取材、がんばるぞ!」と心を新たにしています。