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招き猫のご利益

この写真は「招き猫発祥の地」といわれる、東京・世田谷区豪徳寺の駅前に鎮座する招き猫である。

 

私は、距離的には豪徳寺に近いところに住んでいるのだが、普段はこの駅に降りることがめったにない。昨夜、たまたま乗り換えのためにこの駅を通ったので、なんとなく、この招き猫の写真を撮った。

 

翌日、つまり今日なのだが、とある場所で朝から取材があった。放送局にも出版社にも所属していない、フリーランスの私にしては珍しく、とある大企業の記者発表会に、とある出版社A社のB雑誌の記事を書くために出席しなければならなかった。

 

放送局に勤務していたころは、記者発表会に出席するのは普通だったが、フリーになってからは久々のことなので、正直、あまり気乗りがしなかった…。

 

現場に到着すると、他社の記者さんやカメラマンさんたちが既にいて、受付待ちの列を作っていた。列の一番後ろにいた、若い男性記者の後ろに並ぶ。

 

しばらくすると、受付が始まって、列がゆっくりと動いた。みんな、名刺を1枚ずつ受付の担当者に渡している。私の前に並んでいる若い男性記者も、自分の名刺を取り出して、受付に出した。

 

ふと、その記者の名刺を見た私は「ん??」と思った。見覚えのあるその名刺のロゴは、まさに私がご依頼を受けたA社のものだった!「なんで、同じA社の人がここにいるんだ?」と思いながら、私は自分の受付を済ませた。

 

ちょっと迷ったが、私の前に受付を済ませた若い男性記者に思い切って声をかけた。「御社のB雑誌さんからご依頼いただいて…」と自己紹介すると、その彼は同じ出版社でもC雑誌の担当だという。「あら~!そうなんですか」と、お互いにびっくりしながら、改めて自己紹介した。

 

その彼は自分の上司と一緒に取材に来ていて、受付後にエレベーターで会場へ向かう際、私に上司も紹介してくれた。しかも、その上司は私がB雑誌の記事を書いていることを知っていて「一度お会いしたかったんですよ」と仰ってくれた。もしかすると今後、C雑誌の記事を書かせてもらえるかもしれない。

 

私のようなフリーランスは、出版社そのものとつながっているというよりも、担当者と個人的につながっていることの方が多い。だから、同じ会社にいる人でも、自分の担当者以外の社員を知らないことがままあるものだ。

 

今回は偶然にも、私の前に並んでいた若者が、もともとは私もつながりのある会社の人で、しかも、彼の上司が一緒だったという二重の偶然に恵まれた。もしあの時、思い切って声をかけていなかったら、彼と名刺交換することもなかったし、彼の上司に会うこともなかっただろう。

 

あの時、彼の名刺を見て「ピン!」と来たのは、もしかすると昨夜の招き猫のおかげではないかと、私は密かにありがたく思っている。